大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和24年(ナ)3号 判決

原告 東城町議会

被告 広島県選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求の趣旨

原告訴訟代理人は「昭和二十四年七月二十日執行した東城町議会解散投票についての原告の訴願に対し同年十月二十九日被告のなした裁決はこれを取り消す。右解散投票はこれを無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

三、事  実

昭和二十四年七月二十日東城町議会解散投票が執行せられ、原告は同年八月二日東城町選挙管理委員会に対し右投票は無効であるとして異議の申立をしたところ、同年九月一日右申立を棄却した。そこで原告は同月二十一日被告に対し訴願したところ、同年十月二十九日被告は、訴願人の申立は相立たない、との裁決をし、同月三十一日該裁決書は原告に交付された。しかしながら、右裁決は次に述べるとおり違法の点があるから、取消さるべきである。

(一)  東城町議会解散請求の署名はポツダム政令である団体等規正令に違背して暴力主義的企図により政策を変更することを目的として結成された東城町政淨化連盟と称する団体が議会否認の思想にもとずき群衆を煽動した結果行われたものであるから、全部無効であるのに、右署名を有効とした原裁決は違法である。

(二)  仮にそうでないとしても、東城町議会解散請求の署名者の法定数は東城町の選挙権を有する者の総数の三分の一にあたる千三百七名であつて、右解散請求の署名者の総数は千五百六十一名であるが、同署名のうち千十二名の署名は自署でないから無効というべく、そのうち百八十八名の署名が代筆による無効のものであることは被告も原裁決においてこれを認めるところである。そのほか、前記署名者のうち八十五名は前記解散請求者署名簿が東城町選挙管理委員会に提出された日の前日である昭和二十四年五月十九日までに同委員会に対しそれぞれ適法に署名の取消をした。從つて前記署名中有効署名は法定数に遙かに達しないから、本件解散請求は無効である。

(三)  被告は原裁決において、無効の署名、代筆署名等の数字を挙げておるけれども、その氏名を明示していない。右は理由の根拠を示さないものであるばかりでなく、原告に不利益を與えるものであつて違法である。

右のとおり原裁決には違法の点があるし、本件解散請求は無効であるから、原裁決を取消し、前記解散投票を無効とする旨の判決を求めるため本訴に及んだ次第である。

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として、原告が東城町議会解散投票の無効を主張して同町選挙管理委員会に異議の申立をしたところ同委員会はこれを棄却したので、原告は更に被告に対し訴願の申立をしたところ、被告は右申立を棄却する旨の裁決をし、該裁決書は原告主張の日時原告に交付されたこと並に東城町議会解散請求署名者の法定数が千三百七名であることは爭はないが、その他の原告主張事実はすべてこれを爭う、と述べた。(立証省略)

四、理  由

原告主張の日時に東城町議会解散投票が執行せられ、原告が右投票の無効を主張して同町選挙管理委員会に異議の申立をしたところ、同委員会はこれを棄却したので原告は更に被告に対し訴願したところ原告主張の裁決があつて該裁決書は原告主張の日時に原告に交付されたこと並に東城町議会解散請求署名者の法定数が千三百七名であることは当事者間に爭のないところである。

よつて、右裁決には果して原告主張のような違法の点があるかどうかにつき判断する。

(一)  東城町議会解散請求の署名は特別の事情が認められない限り各署名者の自由意思にもとずき行われたものと認むべきところ、右署名が原告主張のように東城町政淨化連盟が暴力主義的企図のもとに政変を変更することを目的として結成せられ議会否認の思想にもとずき町民を煽動した結果行われたものであることを認めるに足る証拠は少しもないから、右署名が全部無効であるとの原告の主張は採用できない。

(二)  次に前記解散請求の有効署名数が法定数に達したかどうかにつき調査するに、成立に爭のない甲第三号証によれば右解散請求の署名中百八十八名の署名が代筆であることを推認するに難くない。そして議会解散請求の署名は自署であることを要し、代筆は無効と解すべきであるから、署名者総数から代筆百八十八名を控除した残りの千三百七十三名の署名が有効である。そこで若し原告主張の八十五名の署名の取消が有効であるとすれば右有効署名数からこれを控除した残りが千二百六十八名となり法定数の千三百七名に達しないことになるから、右署名の取消が有効であるかどうかにつき判断しよう。

地方自治法第七十六條第一項に「選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一以上の者の連署を以て、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の議会の解散の請求をすることができる。」と定めてあるところから考えるに、普通地方公共団体の議会の解散請求の署名は署名者から当該公共団体の選挙管理委員会に対し当該公共団体の議会の解散を求める意思表示であつて、解散請求者署名簿が同委員会に提出された後は署名の取消はできないが、同委員会に提出されない間は同委員会に対し署名の撤回をすることができるものと解するのを相当とする。

これを本件についてみるに、甲第二十二号証の一乃至二十二によれば原告主張の署名の取消はいずれも解散請求署名簿提出の日の後である昭和二十四年五月二十四日東城町役場又は東城町議会に対し行われたことをうかがうことができるが、原告主張のように同月十九日以前に東城町選挙管理委員会に署名の撤回をしたことを認めるに足る証拠はない。そうすると、原告主張の署名の取消はいずれも無効というのほかなく前記解散請求の有効署名数は法定数を優に超過するものと断定せざるをえない。

(三)  原裁決において、無効の署名、代筆署名の数字を示してその氏名を明示していないことは成立に爭のない甲第三号証により明らかであるが、これを以て理由の根拠を示さないものとはいえないし、又原告に対し法律上の不利益を與えるものとも認められないから、違法とはいえない。

以上のとおり原裁決には何等違法の点がなく、本件解散請求は有効に成立したのであるから、原裁決を取消し東城町議会解散投票を無効とする旨の判決を求める原告の請求はいずれも失当としてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小山慶作 井上開了 宮田信夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!